転移
骨転移
- 症候
- 痛み
- 体動時に増悪するのが典型例。痛みが局所に限局していることも多い。
- 骨折
- 脊髄圧迫
- 高カルシウム血症(約10%の患者にみられる)
- 画像診断
- X線単純撮影
- 骨スキャン
- コンピューテッド・トモグラフィー(CT)
- 核磁気共鳴断層(MRI)
- 治療
- NSAIDs(非ホルモン性抗炎症薬)
- 患者の約80%はNSAIDsに反応する(20%は完全に、60%は部分的に)
- 骨転移すると、プロスタグランジンが放出されると考えられている。それに対して、NSAIDsの一回投与は鎮痛効果があり、連用すれば抗炎症効果が出る。
- 第一選択薬としては、ナプロキセン500mgを1日2回、または経口インドメタシン500mgを1日に4回、あるいは50mgの坐剤2錠を1日2回投与する。
- ステロイド
- 放射線療法-----80%の患者が1〜2週間以内に反応する。
- 8Gyの単回照射と、線量を分割した複数回の照射との効果は全く同じである。
- 予後の短い患者には、単回照射法と10回の分割照射法の違いは大きい。骨転移による痛みに、8Gyの単回照射法を数年間にわたって行った放射線医師がいる。その方が安全で有効なのである。すべての患者に、この簡単な照射法を受けさせる方がよい。
- 骨転移が多発して激しい痛みを持つのは、特に前立腺がんや骨髄腫の患者に多い。この場合には、広範囲照射を行う。まず、上半身あるいは下半身に8Gyの単回照射を行う。必要ならば、6週間後に残りの半身を照射する(1度に照射するのは、半身だけである)。この照射によって、75%の患者は24〜48時間内に痛みが緩和し、数か月痛みの緩和が続く。
- 広範囲照射の副作用
- 放射腺性肺炎(特に上半身の場合)
- 好中球減少症(特に上半身の場合)
- 全身のだるさ
- 入院が必要。照射前に投薬し(制吐薬と副腎皮質ホルモン)、必要に応じて血液科の専門医からの助言を得ること、2週間、血液検査結果を追うことなどが必要である。
- エチドロン酸二ナトリウム(ダイドロネル 1錠200mg)
- 骨再吸収と鉱質化を抑制することから骨ページェット病にも有効である。
- 1回15mg/kg/日より開始し、反応があれば、5mg/kg/日に減量。反応がなければ、1カ月で投与を中止する。
- ビスフォスネート(テイロック) 類似薬 アレディア
- 破骨細胞の機能を抑制して、骨転移を改善、高カルシウム血症を改善。
- 多発性骨髄腫にも有効
- 数日で痛みが良くなる
- 翌日などに一過性の疼痛増強あり(改善する)
- 2時間で点滴しても多分大丈夫(アレディアは海外では1mg/ml)
- 化学療法-----肺がん、前立腺がん、胃がんには有効な化学療法がまだない(肺の小細胞がんを除く)。骨転移痛を伴う骨髄腫や乳がんで、特に他にも転移が進行している場合には化学療法を考慮する。
- 化学療法で骨転移痛を解除するには、数週間から数か月かかる。したがって、骨転移痛緩和のための鎮痛薬やNSAIDsは同時に使うことが正しい。
- ホルモン療法-----乳がんの転移による痛みには、次の薬が効く:
- 35%の患者に、アミノグルテチミド
- 20%の患者に、タモキシフェン
- 20%の患者に、プロゲストゲン
- 前立腺がん転移による骨転移痛に対して、ホルモン療法を初めて行うと、85%の患者に効果がある。したがって、ホルモン製剤の使用は、症状が現れるまで延ばすべきである。
- ホルモン療法で効果が現れるには6週間もかかる。だから、骨転移痛緩和のためには、鎮痛薬やNSAIDsを同時に使うことが大切である。
脊髄圧迫症状
- 第1、2腰椎以上では脊髄自体が圧迫される。
- 第1、2腰椎以下では馬尾が圧迫される(下部運動神経病変となる)。
- 発生頻度
- 全がん患者の5%
- その2/3は
- その他の大部分は
- 腎細胞がん
- リンパ腫
- 骨髄腫
- 黒色腫
- 肉腫
- 頭頚部がん
- 圧迫部位
- 頚椎 2%
- 胸椎 80%
- 腰椎 2%
- 頚胸椎境界部、胸腰椎境界部 16%
- 圧迫の機序
- 転移の広がり
- 椎体、椎弓根部 85%
- 椎間孔(ことにリンパ腫に多い) 10%
- 随内 4%
- 血行性(→硬膜外腔) 1%
- 症状
- 痛み 80%以上
- 運動麻痺 75%以上
- 知覚低下 50%以上
- 痛み
- 局所の骨の痛み
- 神経根圧迫による痛み
- 脊髄圧迫による痛み
- 診断
- X線撮影で症状と一致した部位の椎骨の破壊像が80%の患者にみられる。
- 骨シンチグラムを実施しても、さらに詳しい所見を得ることは少ない。
- CTスキャンを行えば、脊髄造影の煩雑さが回避できるが、完全ブロックのときでも所見が得られないことがある。
- MRIは、もっともよい検査法であるが、どの病院でも実施できるわけではない。
- 治療
- デキサメタゾン
- まず12mgを経口投与、次いで6mg1日4回の投与を続ける。
または、プレドニゾロンのまず100mg静注、ついで経口的に24mg1日4回でもよい。
- 1日4回3日間、ついで急速に減量し、4mg1日4回とする。
- 同時に放射線治療を行う。
- 椎弓切除術による減圧を考慮するのは、
- 痛み以外の症状が、放射線治療やデキサメタゾン大量投与によっても進行するとき。
- 放射線治療を十分に行った後に症状が再発したとき。
- 椎骨転移が単発性のとき
- 不完全ブロックの場合にもっともよく回復する。馬尾に対する限局性病変の場合もよく回復する。
馬尾損傷
- 脊髄末端(第1腰椎下縁)から椎間孔に至る神経根の束
- 馬尾の圧迫は、下肢、膀胱、直腸を支配している腰神経や仙骨神経などの下部運動神経の障害を起こす。排尿反射(第2、3、4仙髄)が遮断されると、尿閉が起こる。
- 臨床症状
- 座骨痛(両側が多い)
- 肛門周辺部のしびれ(感覚異常)
- 排尿遅延、尿閉
- 下肢の弛緩性麻痺
- 放射線療法、副腎皮質ホルモン療法が効くこともあるが、圧迫の解除や神経障害の緩和については失望する結果となることが多い。
肝転移
- 肝転移の患者の予後は、孤立性転移の場合、発症後約18か月、肝全体に広がっている場合にはわずかに3か月である。
- 手術-----肝転移巣切除は、結腸直腸がんによる転移には可能であるが、手術適応のある患者は、約10%である。CTスキャン上、境界が明瞭な肝転移巣は切除可能である。2〜4個の肝転移があっても手術を行う外科医がいる。
- 1年生存率は80%。800症例のうち25%は、5年間、無症状であった。
- 肝動脈の結紮ないし塞栓術は生存率の改善にはつながらない。
- 化学療法-----全身性化学療法は行えない。(フルオロウラシルのような)単剤投与で、20%の患者に部分寛解(腫瘍が少し縮小)がみられるが、延命効果はない(非常に副作用の強い薬を組み合わせた化学療法の部分寛解率は、30%に過ぎない)。
- 埋め込みポンプによる細胞毒性薬の肝内注入法が、多くの病院で評価をうけている。しかし、いまのところ、延命効果が適応となるのは、結腸直腸がんの完全切除をした患者で、肝転移が孤立性の場合である。
- 肝の痛み
- 内蔵痛
- 肝の被膜が伸展することによって起こる。心窩部と右側腹部に感じることが多いが、時には〈背部痛〉として感じる。
- 鎮痛法
- モルヒネによく反応する
- 腹腔神経叢ブロック
- 腹腔神経叢ブロックはよい除痛法で、90%の患者に完全ないし部分的な除痛をもたらす。オピオイドで完全除痛ができない場合、あるいは副作用が強すぎて投与できない場合。
- 副腎皮質ホルモンの大量投与
- 副腎皮質ホルモンの大量投与(デキサメタゾンを1日に8mg)が、腫瘍周辺の浮腫を軽減し、被膜の伸展をやわらげ、時には痛みを減らすこともある。補助的な治療法で、鎮痛薬や腹腔神経叢ブロックで完全な疼痛緩和が得られない時に行われる。
- 肝塞栓術
- 放射線療法が時には肝転移を縮小させ、肝の痛みを緩和することがある。しかし、肝への放射線照射は吐き気や嘔吐を起こすので、疼痛コントロールに行うべきではない。
肺転移
- 肺転移は、進行性悪性腫瘍の患者の約30%に起こるが、症状を伴うことは稀である。
- 切除は治癒を目的とする時にのみ行われるが、主として、原発が大腸がん、腎がん、肉腫、精巣の奇形腫の場合。肺転移切除後の5年生存率は、20〜30%。
- 切除の適応
- 原発がんがコントロールされていること
- 胸腔外転移がないこと
- 放射線療法が効果を示す場合
- 喀血
- 胸痛(胸膜ないし胸壁への浸潤)
- 肺虚脱による呼吸困難
- 胸水(悪性リンパ腫の場合)
- 患側肺の限局した部位に対して放射線を照射する。照射量は1週間で20Gy、あるいは2週間で30Gyが普通であるが、照射される肺の容積によって増減される。
脳転移
- 病巣に起因した症状
- パーソナリティーの変化、錯乱(前頭葉)
- 見当識障害(頭頂葉)
- 失語症(頭頂葉優位)
- 同側性半盲(頭頂葉、後頭葉)
- 生存期間の中央値は治療によって異なる。
- 治療せず 1か月
- 副腎皮質ホルモン 2か月
- 放射線療法 5か月
- 手術と放射線療法 6.6か月(30%は1年生存)
- 副腎皮質ホルモンの大量投入(デキサメタゾンを1日に16mg)で、脳浮腫や頭蓋内圧亢進による症状が劇的に治まる。
- 1日に4mgのデキサメタゾンを投与すると、ほとんどの患者で食欲が増し、気分がよくなる(ただし、全身衰弱には効果がない)。副作用を避けるためには、投与期間を慎重に検討する。
- 頭蓋内圧亢進に対し、アミトリプチリン(トリプタノール、ラントロン)25〜75mg眠前とフルフェナジン(フルメジン)1mgを午後6時に服用すると良好な結果が得られることがある(5)。
- 放射線療法の適応
- 放射線感受性が比較的高い患者
- 脳転移以外に症状のない患者
- 乳がん、肺の小細胞がん、リンパ腫の脳転移に対しては、全脳照射が有効である。
- 乳がんの患者が最も長く生存する傾向にある。
- 脳転移が多発している可能性が高いので、脳全体に照射することが大切である。頭髪が抜けるが、副腎皮質ホルモンが同時に投与されているなら、照射によるその他の副作用がすぐに出てくることは少ない。脳細胞は分裂しないので、大量照射が行われる(例えば、10日間で30Gy)。しかし、照射後に2年以上生存すると,痴呆症状が出てくることがある。
- 脳転移巣摘出の相対的な適応
- 全身に他臓器転移がない患者
- CTやMRIで単発性である患者
- 1年間がんの症状がなかった患者
- 髄膜転移
- 頭痛(項部硬直)
- 下背部痛や臀部痛
- 馬尾神経障害
上大静脈閉塞
- 副腎皮質ホルモン(デキサメタゾンを1日に8mg)と共に、緊急放射線療法が第一選択の治療法となる。時には、化学療法も適応となる(リンパ腫、小細胞性肺がんの場合)。